針金昆虫: オオカマキリ編

針金昆虫の制作担当の安西です。

話がいきなり脱線しますが、最近、Xやインスタに挑戦もしてるので
もしよかったら覗いてみてください。
弊社の活動に関する告知や情報、針金昆虫などの制作過程もアップして行く予定です。
今回のオオカマキリの写真もアップしていますので、ぜひ!
X:https://x.com/life_sicp
インスタグラム:https://www.instagram.com/life_sicp/

さて、今回はSNSでも告知している通り、サイエンスアゴラ2024の出展に向けて
1つ針金昆虫作品を制作しました。
モチーフは「オオカマキリ」です。これが本当に曲者で、、、というおはなし。

今回参考にしたオオカマキリ(千葉県 流山市 2023年捕獲)

オオカマキリ(というよりカマキリ目)は本当によく動く。特に鎌が、、、
昔、家の裏の土手でカマキリを捕まえたとき、どこをつかんでも前腕の鎌が回り込んで痛い思いをした、なんて経験をしたのは私だけではないはず。
あの動きを再現するにはどうすればいいんだろうかと思案を巡らす日々でした。

今回の作品に限らず、針金昆虫制作で最も大事な資料はサイエンティフィックイラストレーションです。
科学論文(特に生物系)や図鑑に掲載されている人の手によって描かれた絵です。
普通の絵と何が違うかというと、それは「科学的に正しく」描かれているということ。
いや、名前から分かるわ!と言われてしまいますね。
では、ここでいう科学的とはなんでしょう。
おそらくはいろいろな意見があると思いますが、1つの回答としては、描かれている対象の個体差が排除されているという点だと思います。
写真や写実的な絵ではなく、また全くの抽象的、概念的な絵でもない。
実在する生き物(対象)を描いておきながら、どの個体でもない、つまり、この世に存在しないものを描いているという、何がなんやらというイラストなのです。頭がこんがらがりますね。

Brannoch SK, Wieland F, Rivera J, Klass K-D, Béthoux O, Svenson GJ (2017) Manual of praying mantis morphology, nomenclature, and practices (Insecta, Mantodea). ZooKeys 696: 1-100. https://doi.org/10.3897/zookeys.696.12542 より抜粋。
各部位の名称が書き込まれ、生き物の構造がわかるイラスト。

さてさて、サイエンティフィックイラストレーションと私の幼少のカマキリと格闘した記憶はなんの関係があるのか。
カマキリが縦横無尽に足を繰り出すさまはカマキリを捕まえようとした方なら誰しも想像できると思います。この「誰しも」と書いた通り、あの自由自在な動きは個体に関係なく、どのカマキリにも共通する体の構造によって可能になっていると自分は考えています。反対に言えば体の構造をしっかりと再現すれば、自分が幼少期の頃攻撃してきたカマキリを想起できるのか、あるいは同じような経験をした方にも、そうそうこうやって攻撃されたよねと共感が得られないかということです。
さらに大きく言うとオオカマキリの共通する部分をすくい取ってオオカマキリらしいカタチ、動きを再現することで誰しもが作品を見てカマキリだと思ってもらえるのかなと。
なので(もちろん標本や実物も観察しますが)科学的に描かれるイラストは自分の作品にとって一番大切な資料になります。

しかしながら、制作過程は地味な作業です。何度も何度もイラストと実物を見比べて、どこの部位がどこにあるのか、それらはどのような関節でつながれているのか、
イラストと実物の対応関係を明らかにしつつ、構造を自分なりに理解していき、頭の中でぼんやり立体的な線を描いていくのです。
そうしていくうちにカマキリは動かすという観点から見るとかなり独特構造だなと思えてきます。本当に曲者。
例えばカマキリはカブトムシといった甲虫に比べて、前足の構造は大きく異なっており、可動域が全く別物であることがわかります。
また中、後足も基節(足の付根)の構造が独特で、獲物を捕獲するときの動きもこれが関係しているのかなと思案したり、
あの動きを再現するにはここが動かないといけない、でもそこが動くと無理が生じるから、、、じゃあ構造の理解が間違ってるのかと、そして振り出しに戻る、、、そんな事を考えながら制作しています。

カマキリはしばし直翅系に分類されるが、その特徴の一つがこの扇状に広がる翅。この表現はかなり考えました。
中脚の制作。足の付根の関節がかなり曲がる。また、この脚自体も胴体部とでかなり自由な関節になっている。

そしてなんとか完成。
まだまだ力量不足で再現できてないところは多いけど
今回でいろいろ制作テクニックの勉強にはなりました。
ではでは完成写真をお楽しみください。ではまた。

歩く姿。
威嚇ポーズ。翅を広げ、手を目一杯伸ばす様。そして前胸や中胸を少しずつひねらないとこのポーズができないのもポイント。
触角のお掃除。わかりにくいがお腹も膨れるようになっている。
棘のお掃除。前足の各関節を再現することで鎌を口まで運ぶことができる。一応口器も動かす事ができるが地味すぎた。
標本のようなポーズ。
鎌が手にまわりこんでくる図。これで棘が刺さったんだなと思いを馳せる。

この記事を書いた人

Anzai Mao