針金マイマイカブリの制作

七夕も過ぎ去り、いよいよ夏本番。今年も暑い夏になりそうですね。
さて、時間は遡り、今年のまだ肌寒い頃に1つの依頼を受けました。それは、、、針金昆虫の制作!
針金昆虫とは、針金で立体的な昆虫の造形を作ろうという試みで過去に何回か趣味で制作してはいたのですが、SiCPとしてはこれが初です。
そして今回のお題はマイマイカブリです。

資料用に購入したホンマイマイカブリの標本。
半世紀ほど前に捕まえられたらしい。

カタツムリを食べるという知るひとぞ知るマニアック?な昆虫ですね。
今回はこの制作過程を少しご紹介したいと思います。

とにかくインプット

まず作るにあたってやることは画像や動画、文献など様々な資料を探すことです。
私はいままで実際にマイマイカブリを見たことがないので、採集して生きている状態を観察したかったのですが、時期や生息域の問題で断念。今回は標本を購入することにしました。
また工藤さんや北地さんにも協力してもらい、自分では見つけられないような昆虫の体の構造に関する文献や論文まで見せてもらいました。外葉や小偲鬚、下唇鬚など知らない言葉のオンパレードで大変ですが、昆虫の体の部位1つ1つに名前がついており、先人の細やかな研究に畏敬の念を感じずにはいられません。
さて、こうして集められた資料ですが、これらをずっと見ます。ひたすら見ます。本当に見続けます。
立体的な造形を把握できるまで…
そらで絵を描けるようになるまで…
動きをイメージできるまで…
夢に出てくるまで…

少しずつ形づくる

試行錯誤の時間が始まります。
今まで出来上がったイメージをもとに各パーツの試作品を作り、針金の素材や細さ、ハンダを使う箇所、動かす部分の機構などを決めていきます。針金作品と言っていますが、ペンチで針金を曲げるだけじゃありません。金属パイプを削って成形したり、バーナーで真っ赤に熱して変形させたり、場合によっては工具を改造したりもします。手段は選びません。できる限りの手を使ってイメージに近づけていきます。
足の関節が自由に動かせるようにしたり、顎の開閉もできて、頭部も動かせるようにするにはどうしたらよいか、触角や口まわりの特徴的な付属肢の節をどうやって表現するかを試行錯誤して、これなら行ける、という制作方法を模索します。

前胸(一部)の試作
とにかく脚がグネグネ動くように試行錯誤。基節と転節の間は小さいながら球体関節を仕込んでいます。
触覚部分の試作
真鍮パイプから一つ一つ切り出しではんだで装飾します。さらに中に細い針金を通して節感を出していきます。

線で立体を表現するということ

針金作品には1つの問題があります。それは「線」のみで立体を表現するという難しさです。
立体作品にはマンガのような輪郭「線」は存在しません。人間は立体物の表面からその形を把握していると言っても過言ではないと思いますが、針金作品は肝心の表面がありません。あくまで3次元の空間に針金(=線)を配置して立体を表現しなければならず、そのためには実際の昆虫からどの線を抽出すると表面があるように錯覚するのか、どの線があると余分なのかを見極めていかないといけません。
興味深いのは「面」を作ろうとしてたくさんの針金を使ってもダメで、実はシンプルにしたほうが「面」を想起したりする点です。本当は3次元も「線」で認識しているのでは?とヒトの不思議を感じます。

とにかくアウトプット

一通り試作が完了したら、あとはひたすらアウトプットです。今まで試作してきたパーツを繋げて一気に作っていきます。ここで語ることはとくにありません!


なんとか針金マイマイカブリの完成です。脚の関節や顎も自由に動かすことができます。

最後に

この作品に限らず、制作物にはいろいろな人の想いをのせて誕生してくるものだと思います。
今回の想いについてはこちらをご覧ください。
ひとまず、この作品を見てくださった方にほんの少しでも喜んでもらえればと思います。

またこの針金昆虫の受注制作を始めたいと思います。
針金でできた昆虫を見てみたい!という方はぜひ針金昆虫の世界にお越しください。
それではまた。

この記事を書いた人

Anzai Mao